ベストセラー「下町ロケット」シリーズの新刊、「ゴースト編」と「ヤタガラス編」が、昨年の夏から秋にかけて続けて出版されました。10月からはさっそくテレビドラマが放映され、こちらも高視聴率だったようです。通常の1クールで話が完結せず、年明けのスペシャルドラマとして完結編が放映されたのも話題になりました。

原作とその映像化作品がある場合、私はいつも映像化作品から鑑賞するのですが、今回もテレビドラマの「ゴースト編」が終わってから原作を読み始め、少し間をおいてドラマ版が完結してから「ヤタガラス編」を読み終えました。例によってドラマがかなり過剰演出なせいもあって、ところどころリアリティに欠ける場面も目についたのですが、原作は細かい描写もかなり丁寧で、さすがの池井戸潤作品といったところです。

基本の勧善懲悪的なストーリーはもちろん面白いのですが、なんとなく類型化している「大企業=悪、中小企業=善」といった二元論で片付けてはいないのが、今回の「ゴースト編」「ヤタガラス編」の奥深さかな、と思いました。特に「ヤタガラス編」には、著者自身が生み出したともいえる「下町○○」ブームに、軽く冷水を浴びせるような展開と文章があって、ここは本書の読みどころの一つだと思います。

ロケットから人体、そして農業と活躍の場を移してきたこのシリーズですが、果たしてこの次もあるのかどうか。新刊を楽しみに待ちたいものです。