雲を掴め~富士通・IBM秘密交渉」(伊集院丈、日本経済新聞出版社)

著者の「伊集院丈」さんがこの作品を執筆しているのは、今年の春先に本人から伺っていたのですが、先月ついに出版されたと聞き、同じ時期に伊集院さんにお目にかかる際に本書を持参して、サインしてもらいました(笑)

本書は日本のコンピュータ産業の歴史を語る上で避けては通れない、国産コンピュータメーカのIBM互換機路線の選択と、そこに端を発するIBM対日本メーカの対立と交渉を描いたものです。

本作で描かれるIBMと富士通の交渉は、主として1980年代前半のことですので、私が富士通に入社する前のことです。ただ、主要な登場人物は当時の重役と著者も含めた上級・中堅幹部なので、仮名で登場する彼らのモデルが誰なのかは、なんとなく推察できます。(私より上の世代の方なら、ほぼ全員特定できると思います)

本作の内容紹介や書評は、すでにたくさん出回っているのでここでは繰り返しませんが、あえてフィクションとして書かれているだけにより読みやすく、スリリングな交渉の過程そのものを楽しめる内容となっています。

読んでいて思ったのは、専門家が客観的に見ても富士通にとって不利な状況下、このハードな交渉をまとめあげられたのは、強烈な使命感によるものだったのだろうということです。「自分の会社を守る」ことはもちろん第一義ですが、それに劣らず、コンピュータ産業を日本の基幹産業として守り育てるという使命感こそが、著者本人を始め、本書に登場する当事者達の原動力だったのではないでしょうか。

2007年現在から見れば、「どうしてこんなことが紛争になったのか」という思いもあるわけですが、やはり産業史の貴重な記録として、そして生々しい交渉を描いた「小説」として評価されるべき作品だと思います。

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「伊集院丈」さんの本名は、実は本書の中でも明かされていますし、なによりご本人が「俺が書いた」と触れ回ってます(笑)が、ペンネームで執筆された意を汲んで、ここでは伏せておくことにします。